RXマイコン、MTUテンプレートクラスを更新

MTU テンプレートクラスをクリーンアップ

RXマイコンの MTU は、非常に高機能で、シリーズが異なると微妙に仕様が異なっている場合もある。

以前に、RX24T で、MTU を使った時に、未完全な状態で実装したが、少し整理してみた。
これは、RX72N Envision Kit で、デジタルストレージオシロを作る場合に MTU の出力が必要な為だ。
※プローブのインピーダンスマッチングを行う場合など、基準波を出力する必要がある為だ。
Pmod2 コネクタに PD1 がアサインされており、PD1 は、MTIOC4B に設定可能となっている。
※この端子は、MTU4、コンペアマッチBに対応した出力として利用可能となっている。


テンプレートの複雑な型を回避

テンプレートクラスの場合、実装時の問題として、「にわとりの卵」問題が起こる場合がある。

これは、テンプレート内に、そのクラス特有の構造体や、enum class 型を定義している場合などで、起こる。

テンプレート内に定義すると、テンプレートの正確な型を知らないと、その定義にアクセス出来なくなる。

template <class A, class B, class C>
class asdfg {
public:

    enum class TYPE {
        AAA,
        BBB,
        CCC,
    };

    struct setting_t {

        ...
    };

};

上記のテンプレートクラスでは、asdfg クラスの「TYPE 型」や、「setting_t 構造体」にアクセスしたい場合、class A、B、C の正確な「型」を知らないと出来ない。

そこで、この回避策として、これら定義を分離してプレーンなクラスとして定義する。

class asdfg_base {
public:
    enum class TYPE {
        AAA,
        BBB,
        CCC,
    };

    struct setting_t {

        ...
    };
};

そして、そのクラスを継承する。

template <class A, class B, class C>
class asdfg : public asdfg_base {

    ...

};

こうすれば、クラス A、B、C の型を知らなくても、「asdfg_base::TYPE」、「asdfg_base::setting_t」として参照出来る。
※「asdfg_base」クラスは、メンバー変数などを置かない、「定義」だけのクラスにしておく、そうすれば、結びつきが緩和されて、全体的な構成がシンプルとなる。
※ C++ での「継承」は、クラスとの結びつきが強力で、なるべく使わない設計が好まれる。

タイマー関係のポート設定

現在のフレームワークでは、比較的簡単な定義で、ペリフェラル固有のポート設定を自動化している。
これは、外部プログラムの助けを借りて、設定を生成しなくても、簡単な指定で、ポートのアサインを自動で行う事が出来る仕組みとなっている。
また、ソースコードはオープンソースとしているので、足りない機能は、個々に追加できる事も大きい。

ポートのアサインは、非常に多義に渡り、複雑でボリュームが大きく、マイコン種別で異なる。
C++ では、コンパイラの最適化で、余分なコードは極限まで排除出来る為、最終的に必要無いコードは、実行バイナリーに含まれない。
※コンパイル時にパラメーターが決定されている必要がある。

arduino などでは、ポートは、決められた整数値を通して、普通の関数で行っている。
この場合、関数内では、switch 文などで、場合別けをして、それぞれの設定を行っている。
しかし、このような実装では、コンパイル時の最適化で余分なコードを排除する事は難しいし、速度が出ない場合がある。
テンプレートパラメーターの場合は、同じように場合別けで実装しても、コンパイル時に、決定された固定値以外のルートにあるコードは削除される。
これが、C++ テンプレートの強みであると思う。


ポートのアサインを行うクラスは、「port_map」で行っている、しかし、MTU 関係は、ポートの指定が複雑なので、専用のクラスを実装する事にした。
※「port_map_mtu.hpp」に移動した。

以下は、MTU 関係のポートを RX72N 176 ピンバージョンから、抜き出して、並べた。
※基本的に、144 ピンやそれ以下のバージョンでは、部分的にポートが無いだけで、対応は同じとなっている。

        ///< P34 ( 27)  MTIOC0A
        ///< PB3 ( 98)  MTIOC0A / MTIOC4A
        ///< P15 ( 50)  MTIOC0B / MTCLKB
        ///< P13 ( 52)  MTIOC0B
        ///< PA1 (114)  MTIOC0B / MTCLKC / MTIOC7B
        ///< P32 ( 29)  MTIOC0C
        ///< PB1 (100)  MTIOC0C / MTIOC4C
        ///< P33 ( 28)  MTIOC0D
        ///< PA3 (110)  MTIOC0D / MTCLKD

        ///< P20 ( 45)  MTIOC1A
        ///< P21 ( 44)  MTIOC1B / MTIOC4A

        ///< P26 ( 37)  MTIOC2A
        ///< PB5 ( 96)  MTIOC2A / MTIOC1B
        ///< P27 ( 36)  MTIOC2B

        ///< P17 ( 46)  MTIOC3A / MTIOC3B / MTIOC4B
        ///< P14 ( 51)  MTIOC3A / MTCLKA
        ///< PC7 ( 76)  MTIOC3A / MTCLKB
        ///< PC1 ( 89)  MTIOC3A
        ///< P22 ( 43)  MTIOC3B / MTCLKC
        ///< PC5 ( 78)  MTIOC3B / MTCLKD
        ///< P80 ( 81)  MTIOC3B
        ///< PB7 ( 94)  MTIOC3B
        ///< PJ3 ( 13)  MTIOC3C
        ///< P56 ( 64)  MTIOC3C
        ///< P16 ( 48)  MTIOC3C / MTIOC3D
        ///< PC6 ( 77)  MTIOC3C / MTCLKA
        ///< PC0 ( 91)  MTIOC3C
        ///< P23 ( 42)  MTIOC3D / MTCLKD
        ///< P81 ( 80)  MTIOC3D
        ///< PC4 ( 82)  MTIOC3D / MTCLKC
        ///< PB6 ( 95)  MTIOC3D
        ///< PE0 (135)  MTIOC3D

        ///< P24 ( 40)  MTIOC4A / MTCLKA
        ///< P82 ( 79)  MTIOC4A
        ///< PA0 (118)  MTIOC4A / MTIOC6D
        ///< PE2 (133)  MTIOC4A
        ///< P30 ( 33)  MTIOC4B
        ///< P54 ( 66)  MTIOC4B
        ///< PC2 ( 86)  MTIOC4B
        ///< PE3 (132)  MTIOC4B
        ///< PD1 (156)  MTIOC4B
        ///< P25 ( 38)  MTIOC4C / MTCLKB
        ///< P87 ( 47)  MTIOC4C
        ///< P83 ( 74)  MTIOC4C
        ///< PE5 (130)  MTIOC4C / MTIOC2B
        ///< PE1 (134)  MTIOC4C / MTIOC3B
        ///< P31 ( 32)  MTIOC4D
        ///< P86 ( 49)  MTIOC4D
        ///< P55 ( 65)  MTIOC4D
        ///< PC3 ( 83)  MTIOC4D
        ///< PE4 (131)  MTIOC4D/MTIOC1A
        ///< PD2 (154)  MTIOC4D

        ///< P12 ( 53)  MTIC5U
        ///< PA4 (109)  MTIC5U / MTCLKA
        ///< PD7 (143)  MTIC5U
        ///< P11 ( 67)  MTIC5V
        ///< PA6 (107)  MTIC5V / MTCLKB
        ///< PD6 (145)  MTIC5V / MTIOC8A
        ///< P10 ( 68)  MTIC5W
        ///< PB0 (104)  MTIC5W
        ///< PD5 (147)  MTIC5W  /MTIOC8C / MTCLKA

        ///< PJ1 ( 59)  MTIOC6A
        ///< PE7 (125)  MTIOC6A
        ///< PJ0 ( 60)  MTIOC6B
        ///< PA5 (108)  MTIOC6B
        ///< P85 ( 61)  MTIOC6C
        ///< PE6 (126)  MTIOC6C
        ///< P84 ( 62)  MTIOC6D

        ///< PA2 (112)  MTIOC7A
        ///< P67 (120)  MTIOC7C
        ///< P66 (122)  MTIOC7D

        ///< PD4 (148)  MTIOC8B
        ///< PD3 (150)  MTIOC8D

ピンのアサインで、痛いとこは、ピンの割り付けは自由に出来ない点だ・・
何故、自由に出来ないのか?、ノイズや、複雑度、回路設計上の事情など様々と思うが、内部の機能を全て有効に使う事は通常出来ない。

毎回、特定のボードで、色々な機能を割り振る場合に、ピンのアサインが可能かどうかを調べる作業が難航する。
使う機能が少ない場合は、難しくないのだが、色々な機能を使いたい場合に、いつも苦労する。
場合によっては、ピンのアサインが重複して、機能を使えない場合も多々起こる。
ボードが出来てから、機能を追加する場合などに、どう頑張ってもアサインが出来ずに、パターンを切って貼ってを行う場合も起こる・・
このような制約は、今後回避出来るようにしてもらいたいものだが・・

また、ハマリポイントとして、MTU3、MTU4 は、ポートが、他のチャネルと重複している為、特定のレジスタを有効にする必要がある。

TOERA レジスタは、出力端子の MTIOC4D、MTIOC4C、MTIOC3D、MTIOC4B、MTIOC4A、MTIOC3B
の出力設定の許可 / 禁止を行うレジスタです。
これらの端子は TOERA レジスタの各ビットの設定をしないと正しく出力されません。TOERA レジスタ
は MTU3、MTU4 の TIOR レジスタ設定の前に値をセットしてください。
MTU.TOERA レジスタは、MTU.TSTRA レジスタの CST3、CST4 ビットを “0” にした後で設定してくださ
い。

RX72N Envision Kit でのテスト

RX72N Envision Kit では、Pmod2 コネクタの 8 番ピンに、PD1 がアサインされている。
PD1 は、MTU4 の B チャネル出力として利用できる。

定義は以下のように行う:
※ポートの候補は「FIFTH」となっている。

    typedef device::MTU4 MTU;
    static const auto PSEL = device::port_map_mtu::option::FIFTH;
    typedef device::mtu_io<MTU, utils::null_task, utils::null_task, PSEL> MTU_IO;
    MTU_IO  mtu_io_;

10000Hz、チャネル B、コンペアマッチでトグル出力としている。
※トグル出力の場合、内部では、倍の 20000Hz でカウンタが動作するように自動で設定される。

    {
        uint32_t freq = 10'000;
        if(!mtu_io_.start_normal(MTU::channel::B, MTU_IO::OUTPUT::TOGGLE, freq)) {
            utils::format("MTU4 not start...\n");
        } else {
            list_mtu_freq_();
        }
    }

内部のカウンタ誤差を表示する:
mtu_io クラスでは、MTU の分周器の機能を使い、なるべく設定値に近い周期を設定しようとする。
それでも、設定誤差が大きい場合はある。

    void list_mtu_freq_()
    {
        utils::format("MTU rate (set):  %d [Hz]\n") % mtu_io_.get_rate();
        auto rate = 1.0f - static_cast<float>(mtu_io_.get_rate()) / mtu_io_.get_rate(true);
        rate *= 100.0f;
        utils::format("MTU rate (real): %d [Hz] (%3.2f [%%])\n")
            % mtu_io_.get_rate(true) % rate;
    }

ターミナル出力:

Start test for 'RX72N' 240[MHz]
SCI Baud rate (set):  115200
SCI Baud rate (real): 115355 (0.13 [%])
CMT rate (set):  100 [Hz]
CMT rate (real): 100 [Hz] (0.00 [%])
MTU rate (set):  10000 [Hz]
MTU rate (real): 10000 [Hz] (0.00 [%])

※この全ソースコードは、Github の RX/test にある。
※RX/test は、プロジェクトに組み込む単機能のテストを行うもので、場合によりコードが残らない場合がある。